振袖は、卒業式や成人式の定番ファッションとして多くの女性から愛されています。上質な素材と美しい柄で作られた振袖は、式典など格式高い場において女性を一層華やかに見せてくれるでしょう。
一方で、決まった場面以外では、どのようなときに着れば良いのか分からないと悩む衣装でもあります。活用方法のひとつとして、振袖を訪問着代わりに着ることを検討する方も多いのではないでしょうか。
この記事では、振袖を訪問着として活用する場合のメリットやデメリットを、おすすめの活用方法とともに紹介します。
目次
1.振袖と訪問着は何が違う?
振袖と訪問着は、どちらも大まかな分類で見ると格式高い場で活用される着物です。絵羽模様と呼ばれる美しい模様が、縫い目を渡ってひと続きに入っているなど、共通点もある一方で、以下の点が異なります。
- 誕生の経緯
- 対象となる着用者
- 格式の違いを表すポイント
振袖の起源は、江戸時代初期の踊り子が身に付けていた衣装です。踊り子が長い袖を振って愛情や哀れみを表現していた姿を、未婚女性が真似ていたことに由来しています。一方の訪問着は、大正時代にパーティーなど華やかな場に相応しい正装として誕生しました。
このように振袖と訪問着は誕生の経緯自体が違うため、対象となる着用者も異なります。振袖は未婚女性に限られますが、訪問着は幅広い年齢層が着ることができ、未婚・既婚を問いません。
また、格式の違いを表すポイントも大きく異なります。振袖は袖の部分が長いほど格式が高いとされ、訪問着は紋を入れているもののほうが格式は高いとされます。
1-1.訪問着が使用される場面
訪問着は準礼装(略礼装)にあたり、さまざまな場面で使用することができる社交用の着物です。近年はより幅広い用途に対応できるよう、あえて「紋なし」の訪問着を作る方も少なくありません。
訪問着はフォーマルな場面はもちろん、カジュアルな場面でも着ることができます。訪問着の代表的な用途は、以下のとおりです。
- お宮参り・七五三
- 入学式・卒業式
- 結婚式・披露宴
お宮参りや七五三、入学式や卒業式など子供のイベント時に訪問着を活用できます。あくまで主役は子供であることをふまえ、目立ちすぎず上品な色合いのものを選びましょう。
結婚式や披露宴における参列者の着物には色留袖や黒留袖もあげられますが、近しい親類でなければ着る必要はありません。友人や遠い親戚に招待された場合は訪問着で十分です。ただし、地方ごとの風習も視野に入れて、事前に訪問着で参列しても問題ないか確認することをおすすめします。
2.振袖を訪問着として使用するメリット・デメリット
お気に入りの振袖は、卒業式や成人式以外の場面でも繰り返し着たいものです。結婚してしまうと着られなくなることも考え、袖を短くカットして訪問着として活用する方法を検討する方も少なくありません。
ここでは、振袖を訪問着として使用する前に押さえておくべき、メリットやデメリットについて解説します。
2-1.メリット:訪問着を購入する必要がない
振袖を訪問着に流用するメリットは、訪問着を改めてレンタルしたり購入したりする必要がないことです。訪問着はとりわけ高価な品ではありませんが、10万円を下回ることは少ないため、頻繁に着る機会がない方にとっては十分に出費を躊躇するアイテムです。
既に所有している振袖を訪問着として活用することで、少なくとも10万円前後の費用を節約することができます。時間をかけて選んだお気に入りの振袖を、さまざまな場面で着る楽しみも大きなメリットです。
また、訪問着を既に所有している場合も、振袖を選択肢のひとつとして加えることで、より多くの場面で和装を楽しめるようになります。同じ顔触れが集まりやすい親戚関係の慶事では1種類の訪問着を使い続けるよりも、会の内容に応じて振袖と使い分けることで、バリエーションを増やすことができます。
2-2.デメリット:色や柄が目立ちすぎる場合がある
訪問着代わりに使用するデメリットとして、振袖そのものの派手な印象があげられます。現在の振袖は色遣いや柄が派手なものも多いため、訪問着として活用すると場にそぐわない可能性も考えられます。
祖母や母親から引き継いだ振袖であれば、時代的にデザインや色合いが落ち着いている場合もありますが、必ずしも悪目立ちしないとは限りません。
また、訪問着用に振袖の袖をカットすることを検討している場合も、注意が必要です。一度袖を短くしてしまうと二度と元の状態に戻すことはできないため、姉妹や親子で振袖として共用できなくなります。
3.振袖を訪問着にリメイクする方法
振袖を本格的に訪問着として活用するのであれば、ある程度リメイクしなくてはなりません。
手軽にリメイクする方法として、「仕立て替え」があげられます。仕立て替えとは着物を用途に合わせてリメイクすることで、振袖の袖をカットして訪問着にすることはもちろん、大きめの着物をリサイズしたいときにもおすすめです。
振袖の仕立て替えを行うときは、リメイクしたい振袖の大きさに最適な方法で作業を進めましょう。
〇大きめサイズの振袖の場合
振袖の身丈(着物の長さ)や身幅が体よりも大きすぎる場合は、丈の長さや身頃の幅を詰めることで解消できます。ポイントは、全体のバランスを考慮したうえで詰める部分を考えることです。
たとえば長すぎる身丈を詰める場合、袖部分も調節しなくては全体のバランスが崩れかねません。身幅を詰めるときも、柄行(模様)が合わなくなる可能性も含めて、仕立て替えを依頼する業者や店舗へ相談しましょう。
〇小さめサイズの振袖の場合
身丈や身幅、裄丈(袖の長さ)が小さい場合は、2~3cm程度の幅であれば一度振袖をほどき、大きめに縫い直すことで解決できます。大幅に身丈を長くしたいときは、別布をあてて身丈を伸ばす方法も効果的です。
小さめの振袖をリメイクする場合も、全体のバランスを重視しましょう。別布を当てて身丈を伸ばす場合は、おはしょりで隠れる部分に別布が来るように調節します。
4.振袖を訪問着にリメイクするときの注意点2つ
振袖を訪問着にリメイクすること自体は、困難ではありません。前述のとおり、大きすぎる場合や小さい場合も、仕立て替え時に工夫すると問題なく使用できる状態に仕上げられます。
ただし、単純にサイズの異なる訪問着をリメイクする場合とは、条件が異なることを理解しておきましょう。振袖を訪問着にリメイクするときは、次にあげる2つの注意点も把握したうえで慎重に検討しましょう。
4-1.落ち着いた柄の振袖を選ぶ
前述のように、振袖を訪問着にリメイクすると現代ならではの派手な色柄が目立つ可能性があります。上品なものやシンプルな柄であれば、多少は目立つもののフォーマルな場面でも十分に活用できるでしょう。
あまりにも派手すぎる柄は悪目立ちしてしまい、使用できる場面が限られる可能性があります。訪問着として活用しても周囲から不自然に思われないよう、リメイク用の振袖は年代物など色柄の落ち着いた商品を選ぶことが大切です。
また、シンプルといっても、モダンな柄も同様に派手な印象を与えかねないため、幅広いシーンで着る訪問着にリメイクしたい場合は避けることをおすすめします。
4-2.あらかじめ仕立て屋さんに相談する
お気に入りの柄であっても、実際にリメイクを体験したとたん、想像とは異なる使い勝手や仕上がりに後悔する場合もあります。元は振袖用に作られた柄を訪問着にリメイクすると、バランスが崩れたり、柄の位置が変わって印象が変化したりするためです。
振袖として見たときは落ち着いた目立たない柄に思えたものも、訪問着にリメイクすると柄の割合が変化して派手な印象になることもあります。想像と異なる仕上がりとなれば、実際に活用できる場面も限られるでしょう。
振袖をカットしたことを後悔しないようにするためには、まずは仕立て屋さんへ相談したうえでリメイクを検討することが大切です。
まとめ
振袖は柄が美しく高価なものも多いため、袖をカットして既婚者も着ることのできる訪問着にリメイクし、長く活用したいと考える方は少なくありません。
しかし、リメイクで想像通りの仕上がりにならないこともあります。また、元の振袖が派手な柄だった場合は、リメイクしても訪問着としての利用場面が限られてしまうでしょう。
訪問着へのリメイクで後悔しないためには、当記事で紹介したメリット・デメリットをふまえ、仕立て屋さんに相談することもおすすめです。